「はっはっは!エミヤ!此度の戦いも存分に功をなしてくれたな!近侍として貴様を召し抱えた余の鼻も高いと言うものよ!」

「はあ・・・王よ・・・恐縮至極にございます」

古代オリエント風の宮殿・・・いや、実際今は俺のいる世界とは別の世界の紀元前三百年前後のペルシア帝国の主要都市の一つペルセポリスの王宮なのだが・・・で豪快な笑い声で一応俺の戦いを絶賛してくれているのはイスカンダル大王・・・日本ではアレクサンダー若しくはアレクサンドロスと言えば覚えがあるだろう。

そう、ギリシア地方の一小国の王から全ギリシアの盟主。そして歴史上空前の大帝国を築き上げたその人。

だが、実際には大帝国建国など結果に過ぎず、ただ『最果ての海(オケノアス)をこの眼で見て足跡を残したい』と言う一国の王としては信じられない理由で東に赴こうとして、その途中にある中東からエジプトまでをも支配下に納める強国ペルシア帝国に、東に向かうのに邪魔だからと言う理由だけで喧嘩を吹っかけ、連戦連勝を重ね、最後の決戦であるガウガメラの戦いにも勝利を収めた結果、ペルシア帝国を事実上崩壊に追い込んだ。

後の歴史に『東方遠征』と呼ばれる事になる大遠征に始めから近侍兼護衛団長(最も現在護衛団員は俺一人だが)兼作戦参謀(本人の気まぐれで強引にこの役職に付けられた)兼陛下と将軍達の取り成し役(この役割が最も多い。皮肉にもこれによって彼らとの知己を得たが)としてイスカンダル大王に仕えて来た俺としては野望・・・いやこの人のそれは夢だろう・・・が持つ力の強さをまざまざと見せられている。

そしてそれ以上に王の信じられない目的の為に心底から感服し、身命を捧げてきた将兵の多さに度肝を抜かれた。

まあ俺もそんな一人である。

例えその夢の為にどれだけの血と命と国を蹂躙していくのかと思っても、例え最果ての海など無いと知っていても心の底から湧き上がる躍動感を押さえる事など出来なかった。

もしかしたらあるのではないのか最果ての海が。

そして・・・もしも・・・ある筈が無いと言うのに・・・それをこの偉大なる王と見る事が叶うのならば、おそらく俺の人生において最大の夢をかなえた時と同等の意義があるのではないかと思わせるほどの。

無いと判っていてもそれを追いかけさせたくなる、その気にさせる、その破格の器に、カリスマに俺は心底魅せられていた。

それにイスカンダル大王は決して無秩序な暴君ではないと言う事は俺自身よく弁えている。

確かに戦場においては敵を蹂躙し粉砕し、国を奪いその富を我が物としてきた。

だが、決して人の心を踏み躙る所業は行わなかった。

一番良い例はイッソスの戦いだ。

この戦いも当然わが軍の勝利で幕を下ろした訳だが、その際ペルシア大王ダレイオスは止む無く退却した際に眼も眩むほどの財宝と自分の妃と姫を置き去りにしてしまっていた。

(実際には彼女達は逃げる際に足手まといになるとの理由で自分達から残る事を進言したのだが)

その気になれば彼女達を強引に我が物と出来たが、陛下は財宝こそ『此度の戦いの戦利品』として没収したが、妃と姫は『かの逸者に対する礼儀』として捕虜ではなく来賓として手厚く保護し、傷一つつける事無くダレイオス大王の下に送り帰した。

ペルシアとの融和策ととる者もいるかも知れないが、イスカンダル陛下は一片の下心無く、戦場で陛下と互角の戦いを演じたダレイオス大王に敬意を払ったのだ。

「エミヤ!余の遠征の始めから此度までよく余を補佐してくれたな」

「いや・・・これが俺の仕事ですから」

「はっはっは!謙遜するな!貴様の功績が大なる事ここにいる皆が知っているぞ!そうであろう!!」

王の呼びかけに配下の将軍達が迷い無く頷く。

「そう言う事だエミヤよ。では早速だが褒美を与えよう。いつもの奴だ」

そう言うとこの世界の貨幣を一袋と明らかに業物だと見て取れる剣を俺に差し出す。

俺の戦功に対しての報奨はいつもこれだった。

この世界にどれだけいられるか判らない身としては過大な財宝など余計な重荷以外の何物でもない。

だが、かといって何も受け取らないのでは王の器量に傷をつけてしまう。

その事を以前身をもって思い知らされた俺は、とりあえず今の俺の半年分に相当する給金と業物の剣を頂くようにしている。

こうして俺の勲功が終わると俺は王の左斜め後ろに立ちいつもの様に王の護衛に入った。









「しかしエミヤ、貴様も本当に欲がないのう」

将兵達の勲功報奨も終わり一時の休息の時王宮の庭園を歩きながらイスカンダル王は近侍兼護衛として影を踏まぬ様に付き添っていた俺に声を掛ける。

「その様な事はございません王よ。俺にも欲はあります。料理の腕を磨きたいとか、実力を付けたいとか・・・」

「それは己が欲であると同時に人の為の欲であろう。もっと自分一人の為の欲を持った事は無いのか?・・・そうだ例えば財宝を独り占めしたいとか」

「財産は身の丈にあった分で十分です」

「むむっ、では美食を極めたいとか」

「それの作り方を知る為ならばいざ知らず、食べるだけとなると・・・」

「むむむ・・・それなら大豪邸で暮らす」

「豪華な家だとこっちが疲れます」

「むう・・・ならば位人身を極めて国を支配」

「俺にその様な器はありません」

「ほら見よ。お前には己以上に人に還る欲を異常に持ち合わせていながら己だけに恩恵を与える欲は異常に乏しい。一個人としては美徳やも知れぬが、イスカンダルたる余の配下としてそれは悪徳だぞ」

「いや・・・その様な事を言われても・・・こればかりは生来のものですから」

出鱈目極まりない論理であるがこの人が言うと奇妙な説得力がある。

「おおそうだ。エミヤよ、前々より気になっていたのだが」

「はい?」

「お主、女を抱きたいと思った事は無いのか?」

「ぶっ!」

突然、何の脈絡も無く言い放った一言に俺は吹いて、むせた。

「けほっけほっ・・・い、いきなり何を言うんですか!貴方は!!」

「いや、遠征が始まってよりこの方お主が娼館で娼婦を買った事など一度も見た事も無い、かと言って朋友らで欲望を吐き出す事もせぬからな」

そうだった・・・この時代男同士の同性愛も鷹揚に認められていたんだった・・・

「いや、俺は衆道の趣味はありませんし・・・女性を金で買うというのも・・・そりゃ性欲はありますが」

「そうかお主にそちらの趣味は無いか・・・」

「・・・何残念そうな声を出しているんですか・・・」

本能的に一、二歩後ずさる。

「安心しろ。お主には配下としては全幅の信頼を寄せているが、寝所までとなると食指が動かぬのでな・・・」

食指が動けば誰でも良いのですか・・・貴方は・・・

「だがなエミヤ、性欲があるのならば女を買えば良いではないか。お主に与えた褒賞の金もほとんど手を付けておらぬのでであろう?ならばかなりの美女も買えるぞ」

「いや、それは確かに・・・ですが・・・」

「別に人の妻を奪うのではない、契約を交わしお主は金を払い女を抱き、女は身体を提供して金を受け取るのだ。やましさなど欠片もあるまい」

「その意味でのやましさはありませんが・・・それ以前の行為でのやましさが・・・」

「それにだ・・・男であり英雄たるならば女の十人や二十人抱いて女の味を知らねばなるまい。真の英雄ならば戦でも色事でも勇者で無ければならぬぞ」

「なんですかその論理は!!それに・・・娼館なんて俺は場所も知りませんし」

どうにか逃げに打って出ようとしたが、

「はっはっは!安心しろ!フィロタスに命じてこの地で一番の娼館の場所も調べさせた。そこで最高級の女を抱くが良かろう」

「騎馬軍団の最高司令官になんて事を調べさせるんですか!」

「なに、あ奴も嬉々として調べ上げたぞ。何しろ将軍達もそこに今夜向かうと言うからな。お主もそれに同伴せよ」

なんつー軍だ・・・司令官が率先して・・・まあ遠征の動機が動機だし・・・当全と言えば当然か

「そ、そうだ!お、俺は王の近侍兼護衛です。護衛が王の御許をみだりに離れる訳には・・・」

咄嗟に思いついた逃げる為の弁論も直ぐに断たれる。

「安心せよ。今宵に限り、一軍団を護衛として余の近辺に配置しておく。これでも不十分だが致し方あるまい」

「いや普通は逆でしょう・・・」

数が多い方が安心するぞおい。

「見知った者がいた方が気が楽であろう。更に力を知り尽くしておれば尚の事」

「それはそうかも知れませんが・・・ですが・・・」

「エミヤ、イスカンダルたる余の命令だ」

「ぐ・・・御意・・・」

結局、俺の抗弁はこの人の最終兵器で完全に塞がれた。









そして夜・・・宴もそこそこに終わり、イスカンダル軍団の中枢の担う将軍達の後について行く形で俺はペルセポリス郊外のある豪華な邸宅に辿り着いた。

「フィロタス将軍・・・ここがその・・・例の娼館なんですか?」

「ああ、エミヤ、何でもペルシアの貴族や王族がお忍びでやって来ると言う。間違いなくこの都市いやペルシア帝国一の娼館だ」

そう言ってフィロタス将軍を始めとする一団がぞろぞろと邸宅に入っていく。

「何で皆うきうきしているんですか・・・」

いくら戦場を駆け巡りイスカンダル大王と共に勇名を馳せた勇者達と言えども所詮は男と言う事なのですか・・・

俺もここでいつまでも立ち竦む訳にも行かず、後を追って行く。

邸宅内に入ると受け付けと思われるカウンターでフィロタス将軍が一人の中年の男と話している。

おそらく支配人なのだろう。

既に他の将軍達は女性に連れられて奥に進んでいく所だった。

「ああエミヤ、お前の手続きも済ませてある。彼女の後について行くが良い」

残っていたフィロタス将軍が指差す先には、褐色の肌に艶やかな黒髪の立ち振る舞いだけで妖艶な色気をかもし出している女性が微笑みかけている。

その色気に当てられたのか動悸が激しくなり思わず生唾を飲む。

「ではエミヤ、お前も楽しんでいけ。それと・・・これは王の命令・・・くれぐれも丁重に。任せたぞ

はいお任せ下さい。フィロタス将軍

そう言ってフィロタス将軍は俺の肩を叩いてお相手だと思われる女性と共に邸宅の奥に消えていった。

最後にあの女性に何か小声で囁き、女性も何か応じていたようだが、よく聞き取れなかった。

「じゃあ、坊や、ついて来て」

そう言って歩き出した女性の後ろを俺は慌ててついていく。

「ちゃんとついて来なさいよね。ここは広いから直ぐに迷っちゃうわよ坊や」

「は、はい・・・」

振り向いて注意を促す言葉も今の俺には聞き流している状態です。

何しろ仕草のさる事ながら、身に纏っている服・・・いや布の身体に巻いている様なもの・・・はシースルーに限りなく近く、穴が開くほど凝視すれば服越しに細い線も、膨らむ胸部、更に尻のラインがうっすらと見えてくる。

この時点で既に俺のは痛い位勃起していた。

食い見るのも失礼と思い視線を外すが、今度は部屋のあちこちから、艶めいた女性の喘ぎ声が聞こえてくる。

この視覚と聴覚の同時攻撃で本番前に俺の理性は粉砕寸前にまで追い詰められていた。

どれだけ歩いただろうか。

そんなに長い時間ではなかったかもしれないが、俺には永久とも思わせる長い時間だった。

「ここよ坊や。さあ、入って」

そこは邸宅の一番奥の部屋だった。

促され入ってみるとそこは寝台の他には大理石で出来ているこじんまりとしたテーブルには水差しと果実が乗せられたバスケットが置かれている。

その他は調度品もさりげなく置かれているだけで特にこれと言った特徴は無いが、それどれもが大理石や宝石でさりげなく装飾されている。

「ふふっ、驚いた?ここはこの娼館でも一番の部屋よ」

「へっ?いや、そんな高い所に?」

「フィロタス将軍から色々頼まれているのよ。坊や初めてだから最高に良い思いをさせてやってくれって。イスカンダル大王の命でもあるらしいわ」

あの人達は・・・『小さな親切、大きなお世話』って言葉知らないのか・・・

「さっ、お喋りはおしまい・・・ふふっ存分に楽しみましょう・・・夜は長いのだから・・・」

そう言って俺をそっと寝所に横たわらせる。

そして俺の衣服を手際よく脱がせていく。

気が付けば女性の方も服を脱ぎその妖艶な裸身を俺の前に晒している。

「まあ・・・やっぱり戦場を往来している人の身体は違うわね。本当に・・・貴族や王族の坊やとは大違い、本当に引き締まった身体・・・」

そう言いながら美術品を愛でる様に指を俺の胸板に這わせていく。

ただそれだけである筈なのに背筋がゾクゾクするような快感が奔る。

「ひやああああ・・・」

「可愛い声出しちゃって本当に初めてなのね・・・でもこれでそんな声出したらここから先に着いて行けないわよ」

「え?そ、それって・・・」

俺の質問に言葉ではなく行動で意味を示していた。

彼女は最後の砦である腰布をいとも容易く剥ぎ取り、外気に晒された俺のそそり立つ逸物に手を添えていた。

「まあ、可愛い顔して立派・・・それもこの若さで・・・これならもっとすごくなるわね」

そう言って軽く撫でる。

「ぁ・・・あああぁぁぁぁ・・・」

初めての快感に声も出ない。

「震えちゃって・・・本当に可愛い坊や。じゃあ天国見せてあげるわ」

そう言ってぱくりとくわえ込んでいた。

「!!」

熱く滑り付く中に入り込んだ瞬間、意識が吹っ飛ぶような快楽が全身を駆け巡る。

このまま我慢の限界を超えてしまいそうになったが、その瞬間、

『強化・開始(トーレス・オン)』

口の中で唱えた詠唱で強化を施した。

いきなり出してしまうのも情けなく感じたのでそれに対する見栄の意味もあり、おかげで射精に対してギリギリで耐える事に成功したが・・・

「ふぁら?(あら?)まふぁたへぇふぁれふの?(まだ耐えられるの?)」

「ぐう!」

お、お願いですから・・・咥えたまま喋らないで・・・微妙な振動が更に気持ち良くて・・・

「しゃあ(じゃあ)・・・ふぉれなはどお(これならどう)?」

そう言うと咥えていたそれを口から離し、舌を絡ませる様に舐め回す。

「!!・・・!!!」

もはや声も出ず、声にならない絶叫を上げながら、絶え間なく襲い来る快楽に完全に翻弄される。

それでも無意識で強化を送り続け、射精への耐性を保たせた事には自分で自分を褒めてやりたい。

暫く舐め回したり、咥え込んだり、咥えながら吸い上げていたりしていたが、やがて口から肉棒を離した。

「ぷはぁ・・・初めてなのに強いのね・・・天性のものかしら」

(いいえ、強化をしていなければとっくの昔に果てていました)

ようやくフェラ地獄から解放されて息をつく。

「じゃあ・・・いよいよ本番ね」

そう言うと服を脱ぎ払い全裸となって俺の・・・正確には唾液や先走り液で濡れた俺の肉棒の・・・上に跨る。

下から見上げる形での一糸纏わぬ女体に俺の頭は完全に真っ白になっていた。

「こんなに凄いのは久しぶりね。私も興奮してきたわ・・・さあ・・・いくわよ。坊やの初めて・・・お姉さんが貰うわね」

そう言うや、俺の肉棒を同じ位濡れた秘所にあてがう。

「んっ」

「ううっ」

双方うめき声を発したが、そのままするりと中に入る。

「「ああっ」」

その瞬間、俺達は同時に耐え切れず声を上げる。

「いっ、いい!良いわっ!ひさっ、久しぶりっ!こんなっああっ元気な、のっ!んあっ!」

嬌声を上げながらも浅く深く上下運動を繰り返し、時には早く遅くと緩急をつけて、更には根元まで咥え込んでから円状に動く。

その動きに、完全に翻弄された俺は壊れた人形の様に一定のスピードで腰を上下に突き上げるだけ。

いや、正確にはそれしか出来なかった。

下手に動けば強化で限界の一歩手前で踏み止まっている精液が噴き出すのが眼に見えていた。

だが、幸か不幸かタイミングが合ったらしい。

突き上げるたびに

「ああっ!ぼ、坊やっ!いいい!!良いわっ!」

背筋を仰け反らして喘いでいる。

「もっと!もっと突いて!強く!」

そんな催促にも俺は応じない・・・いや応じられない。

「はあ!はあ!はあ!」

獣の様に荒げた息を吐き出しながら、ただ一定の速度を守ったまま腰を動かす。

「だ、駄目っ!駄目っ!もう動かないで!」

にわかに焦ったような声が耳を叩く。

次の瞬間、

「あああああ!」

ひときわ大きな嬌声を上げて背筋を伸ばしたまま全身を細かく震えさせる。

同時に膣内が強く締め付けられ、結合部分から暖かい何かが俺の腰の部分を濡らしていく。

(イカせたのか?・・・俺が?・・・)

思考もままならぬ間に俺の頬に手が添えられる。

「・・・本当すごい坊や、本気でイッたの仕事じゃあ初めてよ」

頬を紅潮させて、蕩けるような声で囁く。

「・・・そ、そうですか・・・」

一方の俺はと言えば、肩で息をして返事を返すのがやっとだった。

初めてのセックスに加え、本番中も持続して強化を唱え続けた為に疲労も激しい。

「でも・・・結局出さなかったわね。もしかしてお姉さんじゃ気持ち良くなかった?」

「と、とんでもない!」

即座に否定する。

これで気持ち良くなかったと言うのなら何を持って気持ち言いと言うのか?

「あ、あくまでも俺の方の事情です。で、ですから・・・その・・・」

まさか魔術だの強化だの言う訳にはいかずしどろもどろになる。

「うふふっ、冗談よ。している最中もすごくいい顔していたんだし・・・最後まで出さなかったのは驚きだけど・・・この子なら大丈夫ね・・・じゃあ少し待っていて坊や。ご褒美にいい者あげるわね」

「??」

イイモノ?

何だそれは?

いやそれよりも意味合いが少し違っていないか?

だが、俺が声を掛けるより先にさっさと室外に出て行ってしまった。

後を追おうとも思ったが今は疲弊した体力と限界ギリギリまで追い詰められたのを静めるのが先決と判断して、頭の中を極力空っぽにして呼吸を落ち着かせる。

まあ、気を緩めると直ぐに先程までのセックスが思い浮かぶが。

それでもある程度静まり、体力も回復してきた。

「ふう・・・」

そこでやっと起き上がり、テーブルに置かれていた水差しから水を注ぎ一息に飲み干す。

普通の水の筈なのだが、少し甘い気がした。

そこへまるで見計らったように、

「坊やお待たせ」

「いえ、別に待ってなどは・・・」

声の方に視線を向けると俺の言葉は完全に固まった。

そこには先程の女性と一緒に、もう一人別の女性・・・いや、あどけなさが抜けぬ様子を見ると自分と年のさほど変わらぬ少女かもしれない・・・がいた。

「えっと・・・この子は・・・一体・・・」

「この子がいい者よ」

「ものって・・・『物』ではなく『者』だったのですか・・・いや、人は拙いかと・・・それにもうお金は」

「大丈夫よ。実を言うとね、私は前菜、本番はこの子なのよ」

「本番?」

思わず俺はその言葉を鸚鵡返しにしていた。

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